日本全国に美味しいものあり その2

清水港には海鮮食堂が並んでいて鮪やかつおの他、駿河湾特産の桜えび、生しらす、金目鯛、たかあし蟹、いろんな深海魚が人気です。

名古屋の老舗居酒屋「大甚」で昔いただいた大あさりの大きさは忘れられません。割烹「ふじ原」(70頁)で供された志摩産の「黒鮑」のお刺身、三河の新城川で釣られた「鮎」の塩焼きも印象に残ります。

富山駅前の「親爺」(71頁)「あら川」(72頁)はどちらも太田氏の『居酒屋百名山』に選ばれた老舗の店です。ぶり、たら、ほうぼう、ひらめ、のどぐろ、きじはた、白海老ほたるいか、ゲンゲ、香箱蟹といった富山湾特産の魚介類をお刺身で、焼いて、煮付けて出してくれます。春先に出会うさくらますの薄塩焼きは上品な味で絶品。これら新鮮な美味しさは都会ではなかなか味わえないものです。大きなのどぐろの塩焼きには同行した弟が「こんなに大きく旨いのどぐろを生まれて初めて食べたよ」と興奮していました。

金沢の老舗料亭「浅田屋」(63頁)でいただいた「くちこ」(なまこの卵巣の袋を重ねて干した超高級珍味)の味が忘れられません。

越前町の冬の越前蟹(ずわい蟹)がふんだんに使われた蟹尽くしがすごかった。すべて美味しいのですが特に焼き蟹が一番美味しかったことを思い出します。

和歌山駅前の「魚料理ぎん」は辰ケ浜、加太といった漁港で水揚げされた地魚だけを扱っています。和歌山沖は潮が速く、特に鯛やたこは美味しいそうです。季節によりますが、だるま(めばちの稚魚)、よこわ(黒まぐろの幼魚)、鯛、鯨のさえずり、太刀魚、鰆、たこ、穴子などが美味しい。〆にいただく鯛めしが最高です。

和歌山のフレンチ「オテル・ド・ヨシノ」(79頁)で素晴らしく洗練された料理をいただきました。白浜産の大きな岩ガキの料理は最高。季節ものの地場の鹿や猪などのジビエ(狩猟で得た自然の野生鳥獣の肉料理)をいつかいただきたいと思います。

京都は海から遠いのですが鯖街道などを通って、いろいろな魚介類が集まって来ます。10月初旬ごろにしかいただけない鱧と松茸の旨い物同士が一緒になったお椀いわゆる「はもまつ」に料亭「ちひろで出会ったときは日本人でよかったと素直に思いました。

京丹後の「縄屋」(75頁)は日本の料理屋でも最高な店の一つです。ここでいただいた天然鰻の絶妙な焼き加減の白焼き、かわはぎの薄造りのリゾット、山鳥茸の茶碗蒸しなど、すべて地場の食材を駆使した料理に感動しました。

 

地魚がうまい港の居酒屋

監査役の仕事をするようになってからは国内20か所程度の港町の倉庫に保管された在庫実棚監査の出張では、地場の魚が美味しい居酒屋や鮨屋で一杯飲んで最終の新幹線で帰るというパターンが出来上がりました。出張前に地元で美味しそうな地魚の居酒屋を太田和彦氏の『居酒屋百名山』や「ぐるなび」などで探し予約をして出かけるようになりました。特に日本海の港、秋田、直江津、富山、伏木は地魚が美味しい居酒屋や寿司屋が多く値段も格安です。同行した若い社員も誘いご馳走しています。

また日本の港には地場だけで食されている野菜や山菜、きのこなどもたくさんあります。それらに出会うのも楽しみの一つです。もちろん一流フレンチのお店や割烹、鮨屋などでは感動ものの地場食材にも出会えます。そんな贅沢な料理が味わえ、心豊かになれる時間がとても楽しみです。

 

日本全国に美味しいものあり その1

礼文島の食堂で食べた馬糞雲丹山盛りの雲丹丼の美味しかったこと。こんなに贅沢な丼は他にありません。利尻島の馬糞雲丹はオレンジ色の濃いメスが最高に旨い。利尻昆布の旨みも天下一品。

根室ではタラバ蟹を凌ぐ旨みがあって美味しい花咲蟹をお腹いっぱいになるまでいただきました。

旭川鮨屋「みなと」(20頁)ではキングサーモンの沖取りの全身トロのような大助(おおすけ)や身厚なむき身の北寄貝は脂が乗り甘い鰊の刺身など道産ならではの食材に感動しました。

️札幌のフレンチ「モリエール(11頁)では1年間で100頭ほどしか生産されないという焼尻島の潮風を受けた牧草を食べるサフォーク種の羊「プレ・サレ・焼尻」のラックオブラム(ラム肉を使ったフランス料理の定番)をいただきました。こんな美味しい肉があるのだという強いインパクトは忘れられません。

真狩村レストラン「マッカリーナ」(10頁)でいただいた採れたて野菜をふんだんに使ったフレンチが忘れられません。馬鈴薯のビシソワーズ(ジャガイモの冷製ポタージュスープ)はまさに逸品。アスパラガス、ブロッコリーも最高です。

️秋田の割烹「たかむら」(26頁)では黒鮪、真子鰈、はたはた、岩牡蠣に加え、春には山菜、秋には天然舞茸、松茸などのきのこ類が楽しめます。とんび茸という香り濃いきのこの炊き込みご飯の味は忘れられません。黒鮪の砂ずり辺りの希少部位「えんぴつ」の握りは二度と口にすることはないかも知れませんがまさに絶品でした。

️釜石の鮨屋「竹寿司」では黒鮑、さざえ、紫雲丹、しめ鯖などの握りやきんきの煮付けをいただきました。なかでも新鮮なほやの味が忘れられません。めったに獲れないというまんぼうの刺身が話題になりましたがいまだに出会ったことがなく自分の中では幻の魚です。

️仙台駅中の鮨屋街では立ち食いの近海もののさば、いわし、さんま、あわび、赤貝、北寄貝などの鮨が格安でいただけます。

️鶴岡のイタリアン「アル・ケッチャーノ」では庄内浜で水揚げされる旬の魚介類が供されます。何といっても圧巻は地元の丸山さんが育てた羊のラックオブラム。こんなに美味しい肉料理があるのかと叫んでしまいそうです。夏には地元だけで育つだだ茶豆がいろいろな料理に供されます。

 

 

板前割烹 千花

京阪電車祇園四条に戻り千花の暖簾をくぐる。奥の部屋にも客が何組かいる気配。さすが祇園祭で混んでいる。カウンター8席。手前に女性2名の客。真ん中に老夫婦のカップル。一番遅れて1時に自分が一番奥の席に案内される。心落ち着く空間で親方の「まずは、ご一献」で懐石はスタートする。器も盛り付けももてなしの心配りが行き届いている。女将のもてなしの所作やタイミングも何気なくはんなりとして心地良い。カウンターの板前が料理を整える指先まできりりと神経が行き届いている。

供される料理は食材の味、香り、歯ざわり、舌ざわりを十分に感じさせ、料理人が加えた手間や味付けは飽くまでもそれらを引き立たせる役目である。決して手間や味付けそのものは、主張しない。旬の蛸、鱧、鱸などの海のもの、じゅんさい、木の芽、薙刀豆、水茄子、白きゅうりなどの里のものが、初夏の磯の香りを、里の野菜のみずみずしさを、そして草木の芽が伸びる力を口一杯に感じさせる。菊姫の杯を干す。ゆっくりと満ち足りた時間が過ぎる。白州次郎さんと奥様の正子さんが別々にこの店に来ていたという話を思い出して、そんな夫婦もいいなと改めて思う。食事を終え、四条通りに出る路地まで出て見送る親方と女将に馳走のお礼を申し上げて店を後にした。ほろ酔い加減で次に訪ねた夕刻の貴船川の渓谷沿いの貴船神社下の茶店で一休みしたが、うだるような暑さの祇園祭の京都を久しぶりに訪ねた満足感からか昼間の酔いからか気だるい感覚がしばらくの間続き、睡魔が襲いまどろんだ。京都の今日一日が全て夢であったような錯覚を感じて目が覚めた。

 

① ホタテのソテーのキウイソース和え

② 蒸しあわびとアボカドのこのわた和え

③ 明石の蛸と大根の煮付け

④ 生湯葉と生じゅんさいのお椀

⑤ 明石蛸の子・大和芋と木の芽の和え物

⑥ 鱧とインゲン玉蜀黍かき揚の天ぷら

⑦ 中トロと鱸・山芋キャビアの刺身占め昆布添え

⑧ 雀鯛鮨のちまき仕立ての谷中生姜添え

⑨ ぜんまい・キノコ・みつばと鯛の和え物

⑩ 鱸のかま

⑪ 五品小鉢(鱧の子の塩辛、蛤の佃煮、薙刀豆の和え物、じゃことアスパラの佃煮、生湯葉

⑫ 水茄子の炊き物

⑬ トマト・京野菜・茗荷添えの和風サラダ

⑭ うるちご飯のすぐき・大葉がけ 、白きゅうりの酢の物 、お味噌汁

⑮ マンゴ・林檎・オレンジのジュース     

 

割烹 千ひろ

板前の永田裕道さんは「千花」の先代の二男で兄が現在の「千花」の板前という京都料理界のサラブレッド。しかし本人は意欲的、挑戦的で永い伝統の保守性をあまり感じない。四条通りを八坂神社へ向かい、すぐ手前の小路を北へ上がったところにこじんまりした店がある。初めての人には、なかなか見つけにくい場所だ。カウンターが10席ほどで客一人一人と会話成り立つ店構え。京都旅行のご夫婦が2組と私が今晩の客。

10月初旬は鱧と松茸がコラボする「はもまつ」をいただける京料理を楽しむ絶好の季節である。千ひろで供されるものは全国の産地から送られてくる一級品の食材揃いである。板前の腕の見せ所の半分は食材選びだという。また料理といっても材料に様々なソースを加えて仕上げるようなフレンチの西洋料理とは異なり、飽くまでも食材の持ち味を引き立てるための手加えであり、永田さんは「日本料理は、足し算ではなく、引き算の料理です」とおっしゃる。鱧の料理は全て流石であったが、たたきを切り塩昆布でいただいたものは格別に美味しかった。松茸椀は、まさに京料理の完成形で素晴らしかった。奇をてらったものはないが玉蜀黍かき揚といちじく蒸し、岡山産マスカットくるみ白和えなどは意欲的な試みのようだ。一方、先代以来の定番である焼き茄子やミックスジュースはいつも変わらないメニューだ。一品一品のボリュームはないが品数が多く、本来の懐石料理を堪能できた。

まだ早い時間に食事が終わったので「親方、このあたりに酒だけを楽しめるバーはありませんか?」と聞いたところ「近くにいい店があるので、若い者を案内させます」ということで程近い「いそむら」という古いバーを紹介された。ここのマスターの礒村さんは歌舞伎役者とお友だちで、よく南座がはねるといろんな役者が顔を出す有名なバーであるらしい。最近このバーが有名誌で、そのように紹介されていた。京都は奥が深い。

【懐石メニュー】   

先付(お通し) 黒豆鱧巻だだ茶豆擂流し、新さんましょうが煮、茹で落花生添え

八寸(前菜) からすみ、鯛削ぎ身塩辛、いくら粕漬け、鱧肝煮凝り、煎り銀杏、大和いもと松茸軸炊き物 

向付(お刺身) 鮪の中トロ、赤身、鯛お造り、壱岐産羽がつお お造り、瀬戸内産活き鱧たたき、鱧胃袋湯引き添え(わさび醤油と切塩昆布で)

椀物 帆立貝真薯と丹波産松茸椀

鉢肴(焼物) 若狭甘鯛塩焼き 

強肴(蓋物・蒸物) 玉蜀黍かき揚といちじく蒸し

揚物 秋田産天然舞茸天ぷら

台の物 北山産焼き茄子

止め肴 岡山産マスカットくるみ白和え

止め椀 なめこ赤だし

ご飯 丹波栗ごはん

香物 お新香

水菓子 りんごとオレンジのミックスジュース

初めての京懐石

白洲夫妻が贔屓にしていた割烹の一つが京都南座近くの路地を入った「千花」です。2005年の夏に京都を訪れた折は、あいにく満席でした。どうしても京懐石をいただきたい衝動にかられ下賀茂神社脇にある「吉仙」に電話したところ席が空いているというので早速に暖簾を潜りました。ミシュランの星にこだわるのではありませんが、どちらの店も三つ星老舗で人気のある店です。そんな敷居の高い店に私のような一見さんが入ることは、いま思えば無謀でしたが海外駐在で幾度か修羅場は経験していたので特に身構えることはありませんでした。

ご主人の「まずはご一献」の盃から驚きでしたが供される料理の材料や味、盛付、器の完璧さに店内の凛とした清潔感と静寂感に感動しました。ほどなくご主人から「どなたかのご紹介で」と話しかけられ京懐石は初めてであること、白洲次郎が好きなこと、その白洲の贔屓だった「千花」にトライしたが満席だったことなど正直に答えると、ご主人の谷河さんは笑いながら「初めてがウチでよろしおしたかも知れませんな。うちは外人さんも多く時間があるかぎり懐石とは何かからご説明しているのですよ。わからないことは遠慮なく聞いて下さい」とおっしゃっていただき一気に緊張が解けたことを思い出します。

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初めての京懐石

その後、憧れの「千花」や、その弟さんの店「千ひろ」、「祇園丸山」、「瓢亭」などに行くことが出来ました。そのうちにひとり客には大店の料亭よりカウンターだけの割烹料理屋が向いていて、おもてなしも徹底され、料理も丁寧に作られ、間合い良く出していただけることがわかりました。行って見たい割烹や料亭はまだまだあります。機会を見つけては出かけたいと思っています。