板前割烹 千花

京阪電車祇園四条に戻り千花の暖簾をくぐる。奥の部屋にも客が何組かいる気配。さすが祇園祭で混んでいる。カウンター8席。手前に女性2名の客。真ん中に老夫婦のカップル。一番遅れて1時に自分が一番奥の席に案内される。心落ち着く空間で親方の「まずは、ご一献」で懐石はスタートする。器も盛り付けももてなしの心配りが行き届いている。女将のもてなしの所作やタイミングも何気なくはんなりとして心地良い。カウンターの板前が料理を整える指先まできりりと神経が行き届いている。

供される料理は食材の味、香り、歯ざわり、舌ざわりを十分に感じさせ、料理人が加えた手間や味付けは飽くまでもそれらを引き立たせる役目である。決して手間や味付けそのものは、主張しない。旬の蛸、鱧、鱸などの海のもの、じゅんさい、木の芽、薙刀豆、水茄子、白きゅうりなどの里のものが、初夏の磯の香りを、里の野菜のみずみずしさを、そして草木の芽が伸びる力を口一杯に感じさせる。菊姫の杯を干す。ゆっくりと満ち足りた時間が過ぎる。白州次郎さんと奥様の正子さんが別々にこの店に来ていたという話を思い出して、そんな夫婦もいいなと改めて思う。食事を終え、四条通りに出る路地まで出て見送る親方と女将に馳走のお礼を申し上げて店を後にした。ほろ酔い加減で次に訪ねた夕刻の貴船川の渓谷沿いの貴船神社下の茶店で一休みしたが、うだるような暑さの祇園祭の京都を久しぶりに訪ねた満足感からか昼間の酔いからか気だるい感覚がしばらくの間続き、睡魔が襲いまどろんだ。京都の今日一日が全て夢であったような錯覚を感じて目が覚めた。

 

① ホタテのソテーのキウイソース和え

② 蒸しあわびとアボカドのこのわた和え

③ 明石の蛸と大根の煮付け

④ 生湯葉と生じゅんさいのお椀

⑤ 明石蛸の子・大和芋と木の芽の和え物

⑥ 鱧とインゲン玉蜀黍かき揚の天ぷら

⑦ 中トロと鱸・山芋キャビアの刺身占め昆布添え

⑧ 雀鯛鮨のちまき仕立ての谷中生姜添え

⑨ ぜんまい・キノコ・みつばと鯛の和え物

⑩ 鱸のかま

⑪ 五品小鉢(鱧の子の塩辛、蛤の佃煮、薙刀豆の和え物、じゃことアスパラの佃煮、生湯葉

⑫ 水茄子の炊き物

⑬ トマト・京野菜・茗荷添えの和風サラダ

⑭ うるちご飯のすぐき・大葉がけ 、白きゅうりの酢の物 、お味噌汁

⑮ マンゴ・林檎・オレンジのジュース